朝陽は英夫と優美が近寄ってくると優陽を抱っこして出迎えた。
「優ちゃん、じじとばばが来ましたよ」
じじとばばは優陽にメロメロだ。
ふたりで優陽の奪い合いをしている。
「可愛いなぁ優陽。目元は俺にそっくりだな」
「何言ってるの全然似てないじゃない。ほら優ちゃん、ばばの所においで」
朝陽は優陽を二人にまかせて草むしりをする事にした。
しゃがんで草をむしっていた朝陽が、ふと思いついた様に口を開いた。
「ねえ、お父さん」
「ん、何だ?」
「私、昔言った事が有るでしょ。
優美ちゃんとお父さんが結婚して、私がいて3人家族でマルゲリータみたいだって」
「そうだったな」
「トマトソースとバジルとモッツァレラ。
一番美味しい組み合わせでしょ。
どれが欠けても美味しくならないじゃない。
私にとって素敵な家族のイメージって、お父さんの美味しいマルゲリータなんだ」
「確かにそうだな」
英夫は嬉しそうに、にこにこしている。
「でね、思ったの。
私が結婚して、お父さんとお母さんはマルゲリータじゃ無くなっちゃったんだなって。
だから、優陽を連れていっぱい遊びにいくからね。
そうしたら寂しくないでしょ」
朝陽の言葉を聞いて英夫はとても嬉しそうで、ちょっと恥ずかしそうな微妙な表情を見せた。
「ありがとう朝陽、いつでも遊びにきてくれよ。でもな・・・」
「でも・・・ 何?」
「いや、そのー あれだ・・・」
「なによ?」
「だから、そのー 俺達はマルゲリータってことだ」
「へっ?」
「だから、トマトとバジルが仲良くて・・ モッツァレラを・・・ わかったか?」
「全然わかんない」
「あのね朝陽、私と英夫がね、二人でもう一枚美味しいマルゲリータを焼いたってこと!」
優美が少し大きくなりはじめたお腹を優しくさすりながら、恥ずかしそうに微笑んだ。
「えーっ!そうなのお父さん?」
「まあ、そういうことだ。
そのことも優子に報告しようと思ってな」
「はーっ、びっくりした!
ちょっとお母さん聞いた?
マルゲリータもう一枚だって!どう思う?」
朝陽が優子のお墓に語りかけた。
「えっ、何?」
朝陽が優子のお墓に耳をあてる。
「うんうん、へえ、そうなんだ。わかった」
「優子、なんだって?」
「あのね、お母さんは今、天国の神様と地獄のえんま大王にプロポーズされて両手に花のマルゲリータ状態だから、そちらはどうぞご勝手にだって!」
朝陽が優子の言葉をかりて二人を祝福すると、その場にいた全員が楽しそうに笑った。
雲のきれめからそっと顔を覗かせている優しい太陽も、素敵な家族を暖かく祝福している様だった。
~マルゲリータ~
それは美味しい家族の象徴
さあ、冷めないうちに召し上がれ!
~Fin~